鮫どんとキジムナーの話
沖縄には、「鮫どんとキジムナー」という民話があります。
沖縄ツアーに行ったことのある人ならわかるかと思いますが、キジムナーとは木の精のことです。
・・・都での用事をまとめて、鮫どんが首里へでかけたのは、それから半年ほどたっていたでしょうか。
あの気味悪いできごとを忘れかけた頃でした。
久しぶりに歩く賑かな市で、鮫どんはばったりとなつかしい幼友だちにであいました。
「酒だ。酒だ」
気心を知りつくしている幼友だちと一緒にはいった飲み屋で、二人は泡盛のはいったからからあ(沖縄独特の酒徳利)を何本も空けました。
幼い頃の思い出、共通の友の消息。
首里で働いているらしい友だちは、ふるさとの浜に住んで漁師をつづけている鮫どんの話をむさぼるように聞きたがりました。
「ああそうだ。お前には話してやろう。おれはすごいことをやったんだ」
飲むにつけ、酔うにつけ、どんどん気勢のあがっていった鮫どんは、ふとキジムナー退治のてんまつを話したくなりました。
もう目がまっかになって、酒気ぷんぷん。
「キジムナーの化けた男はな、おれに何も悪いことせなんだ。
うまい泡盛をくれたくらいだが、やっぱり気味が悪かったよ。
とうとう桑の元木を焼かせたさ。女房もぶるぶるふるえながら火をつけたと」
興味深げに聞き入っていた幼友だちの目が、ギラと青く光りました。
「ものすごく古い木がな、ぐわっぐわっと赤黒い火になって燃えたそうな。
帰っていって元木が焼かれているのをみたキジムナーは、さぞせつなかったろうて。
うん、それからはもうあらわれんよ。うまく助かったさ」
激しい怒りの表情となった幼友だちは、小刀をとりだしたかと思うとたちまち鮫どんの手の指の間をぐさっと突きさしました。
「ぎゃっ。な、なにをする……」
全身固い鮫肌にようわれていた鮫どんも、指と指との間だけは、やわらかな人間の肌なのでした。
幼友だちの顔となって鮫どんに近づき、元木を焼いたのが鮫どん夫婦のしわざと聞きだしたキジムナーは鮫どんの指の間がやわらかなことを知っていました。
指の間を深く突きさされた鮫どんは、やがてその傷が悪化して死んでしまいました。
鮫どんはキジムナーが幼友だちになってうらみをはらすとは考えられなかったのですね。
鮫どんの屍は、宇江城に属する前原の地に葬られたということです。
おしまい。